「札幌環状型高速交通体系整備を考える会」が西区や南区を通る札幌外周高速道構想を公表し、自民党札幌市支部連合会に要望すると報道されました。
交通体系整備を考える会、札幌外周高速道を構想
https://e-kensin.net/news/158338.html
過去の構想
南回りの自動車道路の整備については、平成初期ら札幌市と北広島市を結ぶ高規格道路として構想が存在しており、現在でも「札幌南環状道路」として候補路線に指定されています。
事業所からみた都市内高速道路の整備評価に関する研究
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00057/1996/52B-0564.pdf
地域高規格道の整備状況
https://www.hkd.mlit.go.jp/ky/kn/dou_kei/splaat000001ll4m-att/splaat000001ll79.pdf
札幌南環状道路については、2010年のパーソントリップ調査に基づく道央都市圏の都市交通マスタープランにて、将来交通需要の減少、その他道路網強化による機能代替などにより、既定計画から長期計画へ格下げされています。
今回の構想
―考える会から具体的ルートが公表されました。報道記事によると、幅員20mで片側2車線の高架道路、沿道の一部建物は移転が必要となる。ということですが、既存道路に幅員20mの高架橋を建設するには、どの程度の道路幅員が必要になるのか考えてみます。
市道の幅員構成
道路の幅員は道路構造令で規定されており、道路区分や建設時期で異なりますが、札幌市内の一般的な4車線の市道は幅員20mで整備されており、車線3.0m×2、路肩0.5m、植樹帯1.0m、歩道3.5mという幅員構成になっています。
道路構造令は何度か改正され、歩行者数が多い道路の歩道幅員は3.5m以上と規定されています。
都市高速の幅員構成
札幌新道の札樽自動車道や道央自動車道の高架橋は幅員23.90mとなっており、今回の構想の想定幅員20mと大きく異なりますので、―考える会の構想している幅員20mとほぼ同条件の福岡市の都市高速5号線の代表断面をベースとして考えていきます。
都市高速5号線の代表断面によると、主にT型コンクリート橋脚が採用された幅員19.75mの高架道路です。高架橋の下には片側2車線の道路が整備されています。
高架橋の建設に必要な道路幅員
幅員20m市道に4車線の高架道路を建設する場合、どの程度の幅員が必要なのかを考えてみます。
札幌で一般的な4車線市道の幅員構成のまま道路中央に高架道路の橋脚を配置する場合、どのような幅員構成となるか示した参考断面ですが、道路両側3mずつ用地買収が必要となることがわかりました。
※ダブルデッキ構造であればここまでの幅員は必要ないと思われますが、マンションが多い区間は日照問題や騒音問題の解決が必要になります。
改正後の道路構造令に基づく場合は、さらに用地買収が必要になる可能性があります。
高速道路の予定ルート
―考える会が想定しているルートの現況をおさらいしておきます。
北1条・宮の沢通 ・・・ 都市計画道路、幅員27m、6車線(一部4~5車線)
環状通 ・・・・・・・ 都市計画道路、幅員20m、4車線(計画幅員27m、用地未買収)
福住・桑園通 ・・・・ 都市計画道路、幅員20m、4車線
国道230号線 ・・・・ 一般国道、幅員25m、4車線
真駒内通 ・・・・・・都市計画道路、幅員20m、4車線
五輪通 ・・・・・・・都市計画道路、幅員18m、20m、4車線
福住桑園通 ・・・・・都市計画道路、幅員20m、4車線
向ヶ丘通 ・・・・・・都市計画道路、幅員16m、2車線
すべてのルートで道路拡幅が必要になると予想されることから、用地買収や補償に多大な時間と巨費を投じる必要がありそうです。
もし、首都高のように河川上空を利用して高架橋を建設すれば建設コスト圧縮や工期短縮が可能ではないかという考えから、河川優先ルートを考えてみました。
河川優先ルート
始点と終点は―考える会と同じく札幌西ICと大谷地ICとし、河川上空を優先するルートを考えてみました。
凡例
水色 ・・ 河川上空に高架橋を建設する区間(河幅や堤防有無は不問)
赤色 ・・ 公道ではなく住居区域に高架橋を建設する区間
緑色 ・・ 公道に高架橋を建設する区間(道路幅は不問)
黒色 ・・ 非住居区域に建設する区間(破線はトンネル区間)
薄青 ・・ 「札幌環状型高速交通体系整備を考える会」構想のルート
河川上空や河川沿いの区間を中心に詳しく確認してみます。
大谷地IC~(仮称)清田IC
道央自動車道の大谷地ICの約1km先から分岐し、札幌で2番目に長い川である厚別川(あしりべつ川)の右岸通をしばらく南下します。東北通と交差する地点に(仮称)北野ICを設置します。
右岸通と堤防の間が約3~5mあるので論理上、高架道路の橋脚スペースはありそうです。橋脚の構造次第では一部を堤防を跨いだ高水敷に建設することも可能かもしれません。
厚別川を南下した高架は国道36号線旧道手前から、支流の清田川上空を進み、羊ケ丘通との交差部に清田ICを設置、そこからさらに支流であるトンネ川上空、ポントンネ川の上空、暗渠化され地上が遊歩道になっているハルキポントンネ川跡を進みます。
トンネ川やポントンネ川の上空については、一部区間の沿いては用地買収せずに高架道路を建設することは可能だと思われます。
ただし、トンネ川やポントンネの流路に完全に沿う線形で高架道路を建設すると、カーブ半径が小さくなり最高速度が60km/hに抑えられてしまいますので、設計速度を80km/hにするならば、さらに用地買収と立ち退きが必要になりそうです。
(仮称)清田ICのすぐ近くには北海道コカ・コーラボトリングの巨大物流倉庫がありますので、ICが設置されることで北コカの傭車にとても大きな恩恵が期待できそうです。
大谷地IC~(仮称)清田ICの前後約4.5kmの区間については、河川沿い道路や河川上空を有効利用できる区間であると感じます。
(仮称)西岡IC~(仮称)藻岩IC
羊ケ丘を抜けると五輪通をしばらく西に進み、精進川の手前に西岡ICを設置、そこから精進川上空を北上し、南北線自衛隊前駅を高々架で交差して豊平川を横断します。
この付近一帯は丘陵地帯であるため五輪通の勾配がきつく、実際にICを建設できるかわかりませんが、五輪通から(仮称)西岡ICを通って精進川上空を北上します。
設計速度を80km/hにするには、一部区間のみですが精進川の西側に広がる自衛隊真駒内駐屯地の敷地を買収する必要があるかもしれません。
この(仮称)西岡IC~(仮称)藻岩ICの区間について、ほとんどの区間が精進川上空を高架道路として利用可能であると思われます。
(仮称)藻岩IC~(仮称)宮の森IC
―考える会が発表したルートは環状通(の拡幅区間)や北1条・宮の沢通を通るルートですが、河川優先ルートでは山岳トンネルや山麓を縫うようなルートとしています。
この区間において河川上空を有効活用できそうな河川はありません。かろうじて琴似川の上空をを利用することが可能ですが、一部を除いて琴似川の両岸に道路が整備されておらず、川幅も狭いため用地買収が必要となりそうです。
とはいえ、(仮称)藻岩IC~(仮称)宮の森ICに関しては、―考える会が示した環状通(の拡幅区間)や北1条・宮の沢通を通るルートに比べて沿道にマンションが少ないため、用地買収にかける期間を短縮できる可能性はあります。
(仮称)発寒西IC~札幌西IC
山の手通をしばらく西に進み、西野川、中の川の手前に(仮称)発寒西ICを設置、札樽自動車道の札幌西ICまで中の川上空に高架道路を建設します。
中の川に沿う追分川沿線の道路境界から中の川境界まで20m~26mの幅員があるので、高架道路を建設することは可能だと思われます。
(仮称)発寒西IC~札幌西ICについては、多くの区間で河川上空を有効利用できると思われます。
最後に
―考える会が発表したルートを否定するものではありませんが、都市計画による道路拡幅の用地買収が進んでいないルート、崖に接していて拡幅が困難と思われるルート、マンションが林立する幹線道路がルートに指定されている等、用地買収にどれだけの費用や時間を要するのか疑問に感じてしまう部分もあります。
冒頭に示した通り、「札幌南環状道路」の計画は現在でも地域高規格道路の候補路線として残っていますが、直近2回のパーソントリップ調査結果により長期計画に格下げされています。
千歳に進出したラピダスや、北広島の工業団地、石狩新港の工業団地の活況ぶりを考えると、今後のパーソントリップ調査に変化が現れてくる可能性があります。
―考える会がこうして札幌南環状道路を彷彿とさせる構想を打ち出した意義はとても大きいのですが、このままだと開通するまでに30年以上先になってしまと感じます。
今回は用地買収に関わる費用や時間を圧縮するという観点の1つとして、河川上空の有効利用を考えてきました。札幌市の南側や西側は丘陵や山地ですので、別の課題も出てくると思いますが、一刻も早い開通を願いたいです。