札幌市は平成28年から市民アンケート、識者による検討会議、市民ワークショップ、市民説明会、地域住民説明会にて丘珠空港の利活用を検討し、丘珠空港の滑走路延伸を計画してきましたが、2023年7月下旬に、滑走路延伸の供用開始は2030年を目指すことを明らかにし、国に要望書を提出しました。
丘珠空港の滑走路延伸についての経緯は、札幌市のページにまとめられています。
丘珠空港の利活用検討
https://www.city.sapporo.jp/shimin/okadama/rikatsuyo/rikatsuyokento.html
これまでの丘珠空港の動きをふりかえりながら、気になる部分を考えてみます。
丘珠空港のふりかえり
滑走路の変遷
あまり知られていませんが、丘珠空港の正式名称は札幌飛行場であり、昭和19年まで札幌飛行場は北24条西8丁目付近にありました。
昭和17年に現在の位置に新飛行場の建設がはじまり、昭和19年に完全移転しています。
昭和19年の移転当初の滑走路長は1000m、昭和31年の旅客機運行に合わせて1200m、昭和42年に1400m、平成16年に1500mと滑走路が少しずつ延伸されてきました。
YS-11退役によるジェット化検討
平成4年、丘珠空港に就航していた国産旅客機YS-11の退役により、滑走路を2000mに延伸してB737-500ジェット機を導入する検討が進められましたが、平成8年に住民の反対や、新千歳空港との役割分担などから、ジェット機ではなくプロペラ機での運用を継続する方針が決定し、滑走路を1500mへ延伸、滑走路幅を45mへ拡幅する方針が決定されました。
丘珠空港緑地公園の造成
平成11年に入ると「丘珠空港周辺のまちづくり構想」を策定し、丘珠空港周辺の約55haを買収して、丘珠空港緑地公園を整備することが発表されました。
この丘珠空港緑地公園については構想発表当初から、将来的に滑走路を2000mに延伸する際の空港用地として噂されていました。
丘珠空港緑地公園は滑走路の北西、北、南東に広がる公園で、大型遊具、展望ステージ、ラニングコース、ノルディックコース、18ホールのパークゴルフ場など整備されています。
広場には約4mの人工の丘(築山)が整備されており、南西側の公園からは丘珠空港のエプロンを間近に望むことができます。
平成15年には丘珠空港の滑走路の1500mへの延伸、滑走路幅の45mへの拡幅、エプロンの拡張が完成します。
ANAの丘珠路線の撤退
平成21年、ANA(A-net)は丘珠空港に就航する5路線すべてを新千歳空港に移転することを発表し、道や札幌をと協議を始めましたが、ANAが選定したボンバルディア社DHC8-Q400を導入する場合、冬季間の安全な離着陸のためには、滑走路長を1500mから更に延伸が必要とのことで、平成22年にANAが丘珠空港から完全撤退しました。
HACの拠点空港化
平成22年にHAC(日本航空グループの北海道エアシステム)が丘珠空港を拠点空港とすることを発表し、全路線を丘珠空港に集約し、格納庫の新設を行いました。
FDAジェット機の季節就航
平成24年になると、FDA(フジドリームエアラインズ)のジェット機(エンブラエル社ERJ170)による丘珠就航を打診し、試験フライトやチャーター便による実証飛行を実施、平成26年から年間13往復のチャーター便を運行、平成28年には定期便として就航となりました。
しかし、1500mの滑走路では冬季間は運行はできず、夏場においても、いわゆるロケットスタートによる離陸を行っています。
TOKの新規就航
令和5年、新潟の新しいリージョナル航空会社であるトキエアが丘珠-新潟線の定期便就航が決定しました。
トキエアラインは2022年度中の就航を予定していましたが、準備に時間がかかっており、2023年9月の試験フライトを実施しています。
HAC新規路線の就航
平成5年10月に丘珠-秋田線、丘珠-中標津便線が就航しました。秋田便はJAL新千歳-秋田便からの移管、丘珠-中標津はANAが新千歳-中標津線を運行するなかでの丘珠便の開設となります。
丘珠空港に就航している機材
現在の丘珠空港に就航している機材はHACとTOKがプロペラ機のATR42-600、FDAがジェット機のERJ-175を使用されています。
機体の大きさと座席数をまとめておきます。
プロペラ機であるATR42-600はジェット機のERJ-175よりも明らかに小さい機体ですが、ERJ-175はLCCでよく使用される機材A320neoと比べて小さい機体であり座席数も大幅に少ないことがわかります。
※座席数や最短離陸滑走路長は諸条件で違いがありますので参考として考えてください。
※最短離陸滑走路長は公表値です。
※日本においては国土交通省から原則◯◯◯◯メートルの滑走路長の確保が決められています。
滑走路延伸の課題や期待すること
①空港用地に転用される丘珠空港緑地公園の対策
丘珠空港の滑走路を2000mへ延伸するための用地でもある丘珠空港緑地公園ですが、現在ではすっかり市民の憩いの場となっており、すぐ近くに滑走路があることから、着陸する飛行機が頭のすぐ上を飛行するため、小さな子供らに人気の場所となっています。
現在の滑走路延伸計画では北西側に200m、南東側に100m延伸する案が有力となっており、公開された想定図によると、篠路通の一部が空港用地と重なり、丘珠空港緑地の多くを空港用地に転用する必要があります。
また、検討会が発表した資料によると、滑走路北側に小型航空機用のエプロン整備、防災ヘリ・MW用エプロン等整備とあり、丘珠空港緑地が東西に分断される可能性があることが分かりました。
丘珠緑地公園の一部を空港用地に転用するのは仕方ありませんが、市民に定着した公園ですので、新たに用地買収して現在と同じ体験をできるようにすることが重要と思われます。
②ボーディングブリッジの検討
丘珠空港のエプロンは5バースありますが、ボーディングブリッジ(搭乗橋)は整備されていません。そのため、飛行機に搭乗するには、空港ターミナルビル2階の保安検査場から1階へ降り、冬季間もエプロンを歩いて飛行機に搭乗しなければなりません。
検討会の資料によると、ボーディングブリッジの整備検討と記されていますが、現在の丘珠空港にはHACやTOKがATR42-600、季節就航のFDAがERJ-175が就航しています。
ATR42-600は乗降口が機体後方の地上から約1.3mの高さのにありますが、丘珠空港ではボーディングスロープも接続せず、エプロンから直接機体ドアと一体化した階段を使って搭乗します。
ERJ-175の乗降口は機体前方の地上から約2.8mの位置にあるため、タラップ(舷梯)を接続してエプロンから機内へ搭乗します。
ERJ-175には一般的なボーディングブリッジの接続が可能だと思われますが、ATR42-600は乗降口の地上高が約1.3mと低いため、両方に接続可能なボーディングブリッジ存在するのか気になるところです。
近年他空港でも導入が進むエプロンルーフも候補に上がるかもしれませんが、丘珠空港は市内でも積雪が多い地区であり、また北西の風が強い地区なのでエプロンルーフは不向きかもしれません。
③ターミナルビル施設の拡充
現在の丘珠空港の年間利用者は約32万人ですが、現行の空港ターミナルビルが手狭になっており、朝夕チェックインカウンターはとても混雑しています。
丘珠空港のエプロンは旅客機5バース(+小型機22バース)ありますが、ターミナルビルの保安検査場のレーンは1つしかなく、時間帯によってはとても混雑します。
現在の丘珠空港ターミナルは延べ床面積が約3,500㎡程度の小さいターミナルビルですが、2Fにはレストランや売店があります。
丘珠空港の滑走路延伸により、1日の発着便は現在の2倍である70便、利用者数は3倍の年間100万人となる見込まれています。
さらに、道外の空港を結ぶ路線が増やす方針であることから、北海道の美味しい食材を提供するレストランや、北海道土産を販売する売店も大幅に拡充すべきであり、空港ターミナルビルを全体を拡張する必要があると考えます。
現在の丘珠空港の年間利用者約32万人ですが、新規路線の就航があった令和5年度は40万人を超えると予想されています。
滑走路延伸後の空港ターミナルはどの程度の規模が妥当なのか、他の空港ターミナルを調べてみました。ちなみに、国際線がある空港や貨物ターミナルを含む空港もあるので参考として考えてください。
■現在の丘珠空港
■年間利用者が約30万人の空港
丘珠空港の年間利用者に近い空港を調べると、佐賀空港の約34万人、山形空港の約30万人が該当します。驚くことに、年間発着数に関しては(丘珠空港は小型機中心ではあるものの)両空港の2倍以上であることがわかりました。
■年間利用者が約100万人の空港
丘珠空港の滑走路延伸後の年間利用者は約100万人と想定されていますが、その100万人に近いの空港を調べてみると、青森空港が約98万人、小松空港の約114万人が該当しました。
これら結果から、滑走路延伸後の丘珠空港ターミナルの規模を想定すると、約8,000~9,000㎡程度が妥当ではないかと考えます。
北海道新幹線が札幌まで開通すると、直行便で道内空港に入国した外国人観光客が丘珠空港を経由して新幹線で道南や本州へ向かうコースも登場すると予想されますので、国際線の就航がなくても外国人観光客が大勢利用する可能性があるかもしれません。
④二次交通の問題
丘珠空港活用検討会の資料では地下鉄延伸や新交通システムも検討候補にありましたか、大方の予想どおり最終案では地下鉄延伸、新交通システムの検討は先送りになりました。
地下鉄に関して、栄町駅は現空港ターミナルよりも南側に位置しており、留置線や検車線を考えると大きくUターンするする必要があり、約2.6km(約3駅分)の延伸が必要となってしまいます。仮に1つ手前の新道東駅から支線を建設するなら、約1.4km(約1駅分)の延伸で済むことになります。
地下鉄延伸、新交通システムの検討先送りにより、2次交通については現行通り栄町駅行き、札幌駅行きの空港連絡バスにが中心に議論されていきそうです。
ただ、この検討先送りについては、空港ターミナルの場所を丘珠駐屯地付近に移転する可能性も含まれていることを期待しています。
現在の丘珠駐屯地に移転した場合、栄町駅から最短で約700m(徒歩6~8分)程度となるので、動く歩道を整備した地下通路を建設して地下鉄駅と空港ターミナルを直結することも不可能ではないと思われます。
もし、空港ターミナル位置が現在の位置から変わらない場合、二次交通となる空港連絡バスを安定して運行させるために、高速道路と空港ターミナル直結を検討する必要があるのではないでしょうか。
現在、札幌では都心アクセス道として、札幌駅-札幌新道区間を結ぶ大半が地下トンネルの自動車道を整備しており、都心方面は高速道路とダイレクトアクセスが可能になります。
丘珠空港の最寄りに伏古ICがありますが、千歳方面への入口と都心方面への出口しかないため、せっかく整備している都心アクセス道を活かすことができません。
札樽自動車道から丘珠空港ターミナルまで全長約850mの丘珠空港線を新設することで、空港連絡バスの定時性確保と時間短縮を実現することができると共に、丘珠空港周囲の幹線道路の混雑防止になると思われます。
直結路線の新設が難しい場合でも、伏古ICをフルICへの改修および、幅員が50m~65mありながら片側2車線しかない伏古・拓北通の4車線区間を片側3車線にすることでも一定の効果があると思われます。
⑤空港北東側整備の促進
丘珠空港北東側一帯は広大な玉ねぎ畑となっています。また、丘珠空港の北東側の主要道路としては明治初期に伏籠川に沿って開通した道道札幌花畔札幌線のみであり、道幅が狭くカーブが連続するにもかかわらず、大型車の通行も多いため安全に通行できるとはいい難い状態です。
丘珠空港活用案によると、滑走路北東側に小型航空機用のエプロン整備、防災ヘリ・MW(医療ジェット)用エプロン等整備を検討していることが判明しています。また、現在の丘珠空港は貨物取扱がありませんが、滑走路延伸により貨物も取扱うべきと思います。小型機中心の運用となるため積載量は制限されますが、エンブラエル社ではERJ-170など同社リージョナルジェットの客室を貨物室への改修も可能であるとしています。
少子高齢化によりトラック運転手の確保が困難になりつつある中、丘珠空港でも貨物を取り扱い、丘珠空港北側に物流倉庫や食品加工工場を中心とした大規模な工業団地を造成してはどうでしょうか。
滑走路の北東側に整備される予定の小型航空機用のエプロン整備、防災ヘリ・MW(医療ジェット)用エプロンや、新たに整備する工業団地のため、丘珠空港の北側と北東に新たな4車線道路を整備します。
また、滑走路延伸により北東側丘珠空港緑地公園が縮小されることから、冬季間の吹きだまりにで通行止め増加が懸念される丘珠空港緑地公園内を貫通する苗穂・丘珠通(道道花畔札幌線)を伏籠川の東側に付替えます。これにより、将来的に滑走路が2000mに延伸されても道路の付替えは不要となる想定です。
まとめ
地域説明会の議事録を読んでみましたが、反対意見もあるものの地元住民から歓迎の声もあり、むしろ2000mへ延伸してLCCで使われる中型ジェット機も就航できるようにすべきという声までありました。
YS-11の時代は風向きによっては元町付近でもプロペラ騒音が聞こえたそうですが、航空機の技術が格段に進歩した現在はプロペラ騒音が聞こえることはないとのことです。
FDAのジェット機については離着陸で低高度を飛行する際はジェット騒音が気になるものの、時間にして数十秒程度なので、防音対策を行うことでクリアできるものと思われます。
ここ数年で丘珠空港の年間利用者増が続いており、2024年には空港ターミナルの搭乗待合室の拡張、売店移設工事が行われます。また、昨年まで冬季間は運休していた丘珠空港-札幌駅便も利用者増により、2023年冬から通年運行となることが決定しました。
地下鉄延伸や新交通システムの導入検討は先送りされ、2次交通としては現在と同じくバス輸送を中心として検討されていくと思われますが、老朽化している陸上自衛隊丘珠駐屯地の移転と空港ターミナル移設がセットで検討されることを望みます。
滑走路延伸を契機に貨物の取り扱い、丘珠空港の北東側に工業団地を建設することもぜひ検討してほしいと思います。
丘珠空港の滑走路延伸により国際線の就航を目指すというような動きはありませんが、日本では未就航のエアバス社A220-300は1800mの滑走路で離着陸が可能であり、航続距離が約6400kmということからアジアの主要都市と丘珠直行便を就航させることも可能です。
航空機技術の進歩により更に丘珠空港の可能性が広がっていきそうです。
※地図は地理院地図Vectorを使用しています。